通り過ぎただけの風を知る

昨日で原稿トーン仕上げは一通り完了した。今日から3日で完成度を上げていく。

原稿中だというのに、浦沢直樹先生のMONSTERを7巻まで読んだ。1ページ読むごとにため息が出る。医療、東西ドイツ時代、ミステリーという、どれかひとつだけでも難しい要素が、なんと読みやすく、胸に迫る演出でまとめられていることだろう。もはや神業だ。面白くて読むのを辞められない。

中でも好きなのが、風が描かれていることだ。前科者の重たい一言の後に、真面目に受け止める顔があり、3コマ目にザアと風が吹く。なんでだろう?なぜ強く印象に残ったんだろう。

他の漫画の風と違うと感じたのは、演出のための風じゃなかったのだ。ただ通り過ぎただけの風だった。「この風、知ってるな」という感覚だ。白日の下、外でランチを取るような平和な日常の中にも、強い風が吹く感覚を浦沢直樹も知っているんだ。この人の他の漫画も読みたいと思った。

結構、作家に感覚の共有を求めてるのかもしれない。リアル(井上雄彦)1巻で柾の母が頷きながら野宮の話を聞いているコマ、あたしンちで母が無人の家で食べ物の辛さに慌てた後に「こういう時人は孤独よね」と遠い目をするシーン、ジョジョ6部で徐倫が夜中に涙が出てくるシーン、どれもその感覚を知っている人にしか描けないものだ。

MONSTERは情報の出し方が圧倒的に上手い。本当に、こんなに難しい内容をストレスなく読めるのが不思議だ。そして何より、キャラクターが良い。浦沢直樹は、極悪犯罪者も小狡い悪人も娼婦も、作中で裁いていない。その人が捨てたはずの心の底の小さな光を揺さぶるエピソードを作っているだけだ。あとはキャラクターに考えさせている。そしてキャラクターは、それぞれの救いを見つけ出す。

私は、自分が犯罪者になったらということをよく考えてしまう。自分に罪があると知っていると、人にどんな罵詈雑言でそこを責められても、なすがままに受け入れようとするだろう。それは、辛いことなのだ。経験がある。誰しも赦されたいと思っている気がする。私も、裁くためではなく、赦すために漫画を描きたいと願う。MONSTER、まだ読んだことのない人には、読むことをおすすめする。

今日もがんばるぞ。